身体が資本である狼は、いつも肉体に気を遣っている。
そしてそれは、恋人である御剣の家を訪ねた時も変わらない。
腹筋や背筋などの基礎的な筋力トレーニングをし、風呂に入り、寝る前にストレッチをする。
この一連行為はいつからはじめたのか、最早狼にとって習慣化されたものらしく、それらが行われなかった日を、御剣は未だに見たことがなかった。
最初は汗を流す狼を眺めながらのんびり紅茶とトノサマンに興じていた御剣も、いつしか一緒に筋トレをし、風呂に入り、ストレッチをする、という習慣が身についてしまった。だから余計に、狼がこの習慣を怠る姿を見たことがないのかもしれない。
今日も、昼ごろ執務室を訪ねてきた狼と一緒に、既に筋力トレーニングと風呂を済ませ、ベッドでお互いにストレッチを行っているところだ。
慣れないうちは手取り足取り教えてもらったストレッチだが、今はもう慣れたもので、ストレッチの合間にマッサージまで取り入れられるようになった。
「やっぱ、ひとりでやるのとは全然違ぇな」
各所を伸ばしてもらいながら、しみじみと狼がこぼす。一人でおこなうストレッチでは、どうしてもいらない力が入るので、効果としては落ちてしまうらしい。褒められたというわけではないのだが、こんな形でも狼の力になれているのかと思うと、胸がじんわりとしてくるから不思議だ。
そういえば、二人でストレッチをするようになってからは会話が増えた気がする。
リラックスしているからか、話題もゆっくりと楽しいものばかりで、御剣はこの時間がとても好きであった。
また、なによりも気がかりな狼の無茶を、情欲とは違う形で身体に触れることによって確認出来ることは、無意識にでも御剣の心労を減らすことにかなり寄与していたのである。
「今回は山籠りをしたのだろう?さぞキンカンが役に立ったのではないか?」
枝で切ったのだろう無数の小さな切り傷や擦り傷などと共に、浅黒く焼けた肌に虫刺されをいくつか発見した御剣は、前回の逢瀬で手渡した日本の代表的な虫さされ薬の効能を訪ねた。
「あぁ、アレな。助かったぜ?痒くて寝られない時と…寝たらいけない時にもな」
後者の使い方はともかくとして、獣の名を名字に持つ男がせっせと虫刺されと格闘していたかと思うとおかしく、御剣の口元は自然と笑みの形に引き上げられた。
くすくすという楽しげな笑い声と共に御剣の手が狼から離れ、逆に狼の手が御剣の肌に触れれば、おだやかなストレッチの時間は終わりを告げる。
「寝る前のストレッチではないのか?」
頬を撫でている指先が何を意図しているかなど狼の瞳を見れば一目瞭然で、あまりの切り替えの早さに更に楽しげに笑いながら問えば、少し強引に頭を引き寄せられて唇が触れあう。
「勿論。だから交代してんじゃねェか」
一瞬離れた唇を認識する間もないままに熱い吐息が耳朶を掠めれば、クールダウンしていた筈の身体は容易にまたウォームアップをはじめてしまう。
「アンタ特に立ち仕事なんだから、たまには脚高くしてやんねぇと…」
そんな下衆な言葉でさえ、耳馴染む声で言われれば睦言に代わり背筋を下って腰に響く。
「わかった。貴方に任せよう…好きにしたまえ」
どうせ、律義な狼のことだ。しっかりまたクールダウンしてマッサージまで付き合ってくれるつもりなのだろう。運動自体も嫌いではないが、その後の狼の対応はまた格別だということは御剣の身体が良く知っている。
既に快楽に疼き始めた身体は熱と心拍を高く保ち、了承の意を狼に伝えていた。
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ということで、従兄弟に夕飯のお礼のマッサージをしてやっている時に思いついたお話。
セクハラ発言してる師父が書きたかったのと、二人で筋トレしてたら可愛いなぁと思って(ぇえ)
立ち仕事には筋トレとストレッチマッサージはかかせませんとも!!